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政策立案・形成過程

GHQ"

立案

 アメリカの対日戦後政策が具体化されたのは、1944年1月に国務省内にPWC(戦後計画委員会)が設置された頃である。この委員会が立案した文書は、当初は限定的介入を基調として、メディアに対しても具体的政策を取ることは予定していなかったが、基本政策が戦後日本の大改造へと転じていくのに伴い、介入の度合いも大きくなっていくこととなった。

 PWC文書「合衆国の対日戦後目的」(PWC−108a)は、占領を三つの時期に分けているが、特に戦闘終了後の占領統治期には、「新聞、ラジオ、映画、学校を通じての自由主義思想の宣伝」を実施することを定めていた。

 この文書にそって作成された「軍国主義の廃止と民主主義的過程の強化」(PWC−152b)では、連合国に批判的なものを除く、「新聞、ラジオ、映画の自由」、「討論の自由」、「個人の自由」など具体的政策を掲げている。

 さらにメディアに絞ったものでは、「日本、占領、公的情報と表現のメディア」(PWC−288)があり、「連合国の目的に反する思想の流布の中止」、「公的情報と表現の媒体に対して厳格な統制を課す」ことを明記しながら、「日本における表現の自由の発達を奨励する」ことを勧告している。

 「表現の自由」と「厳格な統制」とは矛盾するが、つまりは「連合国の許す」枠内での自由ということであり、結果的にアメリカ的価値観の強制に他ならなかったと考えられる。


CIEの設立と情報政策の形成

 1945年11月1日「日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期の基本的指令」が出されだが、この指令の日付からもわかるように日本の降伏が予想以上に早かったため、既に9月10日、「最高司令官の政策を促進するための日本人への情報普及」(10)という情報に関する政策の骨子がマッカーサーの下で決定されていた。

 そこでは占領下の情報政策の方針が規定されているが、軍事、経済、政治についての問題提起の後、第四に「心理」(11)が挙げられ、「日本人の諦観的態度(fatalism)は精神的に敗北を受容することを容易にしている。彼等の気力、勤勉、責任感そして家(home and family)への執着は安定化のための要因となる。天皇に対する忠誠は最高司令官の政策を容易に受け入れることをもたらす。」とされている。

この段階でいち早く「天皇に対する忠誠」と日本政府の利用が確認されていたことが注目されるが、宣伝政策に関連するものとしては「心理」の項目が重要である。この文書からは、逆に言えば1945年11月の段階においては、日本人の中にまだ敗北感情を抱いていないものがいた、ということが分かる。こうした分析は、検閲によって収集された個人の心情まで占領軍が把握していたからこそ可能になった。

 続いて、この「情報普及の目的」の「心理」の項では、第一に日本敗北という事実を明確にさせる」こと、第二に「日本人に彼等の戦争責任、彼等が犯した残虐行為、そして彼等の戦争犯罪を知らしめること」、第三に「日本人に軍国主義者は日本の敗北と受難故に責められるべきことを理解せしめること」が挙げられている。

 この後、9月22日には一般指令一八三号により太平洋軍総司令部軍政局から「日本並びに韓国における社会情報(Public Information)、教育、宗教、その他の社会問題」(11)に関する部局としてCIE(Civil Information and Deucation Bureau:民間情報教育局)が独立した。初代局長はダイクである。設立当初、CIEの目的は次のように規定されている。(12)

a.以下の事項について促進すること

 (1) 連合軍の情報(Information)並びに教育の諸目的の完成を果たすこと
 (2) 社会情報(Public Information)のあらゆる媒体を通じて民主主義の理念並びに原則を普及することで、宗教的な信仰の自由、言論、出版、集会の自由の確立を促進すること
 (3) 日本国民一般のあらゆる階層に、日本の敗北並びに戦争犯罪についての真実、日本の現在並びに将来の困窮と欠乏に対する軍国主義者の責任、連合国による軍事的占領の理由と目的を知らしめること

b.あらゆる媒体を通じ情報の計画を促進し、日本の国民一般に行きわたらせること。日本並びに韓国の政治的、経済的、社会的復興のための全ての政策と計画について両国民(their)の理解を確実にすること(13)。

c.以下の機関との連絡を維持すること

  (1) 日本の情報並びに教育に関する省庁
  (2) 日本の報道、ラジオ、映画並びに他の情報機関
  (3) 教育諸機関
  (4) 宗教的、政治的、職業的、社会的、商業的諸組織;つまり、最高司令官の情報並びに教育の目的について両国民(their)の理解と協力を確保する諸組織

d.以下のような世論調査を促進し、その実行を指導することが必須である

  (1) 占領軍並びに復興に対する民衆の反応について事実に基づいた情報を最高司令官に提供し続けること
  (2) 政策並びに計画を連続的に作成し集成するための信頼できる基盤を確保すること

e.最高司令官の情報並びに教育についての目的を実行するのに必要な案、データ、計画の着手並びに作成を指導すること

f.以下のことを確実にするように促進すること

  (1) 教条並びに軍事教練を含む実習において、日本の教育制度のあらゆる要素から軍国主義と超国家主義を除去すること
  (2) 民主主義の理念と原則の適切な普及という使命を達成するために必要な新たな指導要領を学校教育課程に含めること


 この政策過程に、GHQの行った宣伝政策のほぼ全容が見て取れる。つまり―

 [a項1]GHQの「情報計画」並びに「教育計画」(「日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期の基本的指令」)を実行するためには、
 [a項2]「民主主義の理念並びに原則を普及」して、「宗教的な信仰の自由、言論、出版、集会の自由の確立を促進すること」(「情報普及の目的」のため)で、
 [a項3]「日本国民一般のあらゆる階層」に、「日本の敗北並びに戦争犯罪についての真実」(「日本人に彼等の戦争責任、彼等が犯した残虐行為、そして彼等の戦争犯罪を知らしめる」)、「日本の現在並びに将来の困窮と欠乏に対する軍国主義者の責任を理解せしめ」(「日本人に軍国主義者は日本の敗北と受難故に責められるべきこと」)ることで、「連合国による軍事的占領の理由と目的を知らしめること」が出来ると考えていたと言うことだ。


(10)「PUBLIC OPINION SURVEY - BASIC PLANS Sept.1945 - May 1946」B-7424-6

(11)アメリカは宣伝作戦のことを「心理戦争」(psychological warfare)と呼んでいた。

(12)(9)に同じ。

(13)GHQ/SCAPは日本並びに韓国の占領を目的としており、CIEの目的もこの両国を対象としたものであった。従って、内容的には、明らかに日本を対象としている事項であっても、日本だけを指すのか、韓国だけを示すのか、或いは両国を意味しているのか曖昧な部分がある。

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