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資料・研究状況

GHQ"

資料状況

 アメリカで情報公開法が制定され、30年間以内に公文書を公開することとなった。占領期のメディア関係の機関、一つはCCD(Civil Censorship Detachment:民間検閲支隊)という検閲機関、もう一つはCIE(Civil Information and Education: 民間情報教育局)という、メディアを指導しながら国民を啓蒙する機関、それらの機関の占領期の活動を示す大量の内部資料つまり英文の公文書が日本でも見られるようになった。

 もう一つは、メリーランド大学のいわゆるプランゲ文庫(1)という、実際に検閲されたメディアの資料の現物が、これも国会図書館とメリーランド大学の共同作業で、マイクロフィルム化が進められた。まず雑誌から始まって新聞、そして今では書籍に作業が移ろうとしている。

 1993年に、メリーランド大学に隣接して巨大なアメリカ国立文書館分館(アーカイブスU)が新しくできた。本館やスートランドなどにあった公文書がここに集めらた。

 その二つの資料群があるために、近年日本の研究者のメリーランド詣でが盛んで、いろいろな方面の研究者が双方の資料を活用するようになってきている。

  しかも最近は、そのアーカイブスUにはその他に、OSS(Office of Strategic Service:戦略諜報局)というCIAの前身の諜報機関の、インテリジェンス関係の資料が整理、公開されてきたり、あるいはOWI(Office of War Information:戦時情報局)という宣伝機関の資料も使い易くなってきている。

 アメリカでのGHQやOSS資料は、原則的には公開されるべきものはほぼ公開されている状態となっている。ただ、安全保障やプライバシーに関わるとされるものは、例外的に未公開のままである。しかしトップシークレットと押印されていて、閲覧が非常に限定されていた資料群でも、戦時中のものは出てきている。(2)


先行研究

 近年、占領研究は興隆をみて、その裏面にも光が当てられるようになった。CIEによるメディア統制などに関する研究が特に進んでいる。

 歴史学は伝統的に政治や経済、労働問題あるいは教育問題に主な焦点を絞る傾向があり、メディアに関する研究は比較的新しい学問分野に属しているという事情もこの分野の研究の乏しさの理由の一つとして挙げられる。

 さらに、これが最も大きな理由なのかもしれないが、これらメディアへの介入が極秘活動で行われていたことである。先に挙げたように、こうした分野の資料公開はどうしても秘匿されがちであり、研究者の目に触れにくい。(3)

 占領期の研究者は数多いが、竹前栄治氏はその中でもこの分野での研究の第一人者であろう。政治学分野では五百旗頭真氏の先駆的研究のほか、1980年代〜90年代に教育史では久保義三氏、マスメディア史では有山輝夫氏らにより先行研究の蓄積がなされた。

 近年では、谷川健二氏のように映画製作形成過程を取り上げたものや、土屋由香氏のように占領軍の政策立案過程などを「再教育・再方向付け」の視点から読み解いた、これまであまりなかった分野や方法での研究も進んでいる。

 また本論で扱う宣伝、情報に関するものでは、山本武利氏がOSS、OWIの資料収集、分析や占領期雑誌資料、いわゆるプランゲ文庫のデータベース化、雑誌の発刊など精力的な活動を行っており、注目される。(4)


江藤淳の先駆性

  占領期の情報統制と戦後社会の関係について最も初期に着目した人物というと、やはり江藤淳氏になるだろう。竹前栄治氏ら占領期研究会の人々は江藤の業績を無視するという形をとっているように見受けられ、また江藤の方も同じように受け止めていたようで、お互いの成果を有効に利用するという態勢はなかったのは残念に思う。

  江藤は、1979年から80年にかけてワシントン郊外のスートランドに行って、まだほとんど整理されていなかったボックスを探り当てて、CCDの資料を見ている。その時点では、公開はされていたが整理などされていなかった。彼は、そことメリーランド大学のプランゲ文庫の両方に通って、占領期の日本の言語空間がアメリカによって強制的につくられたことを論証しようとした。

 その後、メリーランド大学でどんどん資料が公開され始め、現物の資料が手にとって見られるという状態になり、さらにマイクロ化が進んで、日本の国会図書館でも見られる形になってきた。

 CCDのボックスは190箱位あって、その中の10箱位しか見なかったとその著書で述べている。(5)
 またスートランドでアシスタントがいたこと、プランゲ文庫でも奥泉栄三郎氏という、資料の専門家が当時メリーランド大学にいて、資料を提供したり、サポートを受けたことも述べている。

 そうした手助けがあったにしろ、膨大な資料群の中でしかも資料環境劣悪な時期に、短期間で宣伝政策の核心をつかんでいることは、彼自身の力量がしからしめた分析であることは間違いない。その仕事が、一九八〇年代初頭の雑誌『諸君!』に連載されていくわけだが、宣伝政策の実態を掌握して分析したことは素直に評価されるべきだろう。


(1)日本占領期間中を通じてGHQ/SCAPに検閲のために提出された全国のあらゆる印刷物を保存している。現物は米・メリーランド大学マッケルディン図書館に保管され、現在は日本の国立国会図書館においてもマイクロ・フィッシュの形で閲覧可能。

(2)GHQ資料については、山本武利『占領期メディア分析』法政大学出版局、1996/3/30、2項-7項に詳しい。

(3)竹前栄治『占領戦後史―対日管理政策の全容』(双柿社、1980)80項
 最近でも、アメリカのインテリジェンス・コミュニティによって進められている再分類計画 (reclassfication program)によって、NARA所蔵のアメリカ外交・軍事政策に関連する文書が再分類され、特に機密解除された資料を再び機密扱いにして非公開にされた例がある。
 この計画は1999年から始まり、2006年2月時点で、5万5000ページ以上が再び非公開になっており、50年以上経つ記録も含まれているという。BBC News:US 'reclassfying' public files [http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4735570.stm]

(4)五百旗頭真『米国の対日占領政策』(上・下)(中央公論社、1985年)、久保義三『対日占領政策と戦後教育改革』(三省堂、1984/01) 、有山輝夫『占領期メディア史研究』(柏書房、1996)、山本武利『占領期メディア分析』「法政大学出版局」1996/3

(5)江藤淳『閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本』「文春文庫」1994/1/10、25項

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